2017年 12月 15日

国谷裕子さんに聞く SDGsに込められた思いと、子どもたちへの期待-後編-

食料や気候など、 身近な課題を自分事として考えさせながら SDGsのスピリットを伝えてほしい

──SDGsの考え方が大切だということは、学校の先生方も理解されていると思いますが、複雑でなかなか教えにくいという声も聞かれます。どのような切り口で子どもたちにSDGsの考え方を伝えたらいいと思いますか。
   
 いろいろな切り口があると思います。まずは食べ物の話から入るといいかもしれませんね。日本は大量の食料を捨てていますから、その無駄がさまざまな課題を生み出していることを子どもたちに想像してもらってはどうでしょう。給食が残ってしまったときに、それはどういう意味をもつかということを話し合うなど、SDGsのアイコンを見ながら、食品を捨てるということが、どんなことに関連するかを想像してみるのがいいかもしれませんね。
 他にわかりやすいのは気候の話題です。私は、アメリカ海洋大気局が発表している世界の地表と海の表面温度をチェックしているのですが、そこにある過去138年間のデータの中で、2017年7月の気温は、過去二番目に高いんですね。20世紀の平均気温と比べると、1.49度も高いのです。そうしたデータを踏まえて、ではこの1.49度高いということはどういうことなのか。エアコンの効いた部屋にいられる人は大丈夫かもしれませんが、エアコンのない人にとっては大変な環境変化です。もちろん動物や植物にとっても同様です。そのようなことについて考えてみるのはどうでしょうか。
 他にも、海の藻というのは、新しい芽を秋から冬にかけて出しますが、水温が20度を超えると育ちにくくなるんですね。反対に藻の新芽を食べる魚たちは、水温が上がるとすごく活発になる。そうなると新しい芽がなくなってしまい、そこに産卵するアジなどの魚がいなくなります。アワビやウニもそうですね。このように普段食べている魚を切り口にして説明すると、子どもたちに理解されやすいかもしれないですね。
 また、みなさん森林だけが二酸化炭素を吸収していると思いがちですが、海の藻なども二酸化炭素の吸収力は高いんです。ですから藻が減少すると温暖化が進むし魚もいなくなります。そうなると漁業で生活していた人がその地域に住み続けられる状況でなくなってきます。そういったことも子どもたちに伝えて考えさせるといいと思います。
 また、学級の課題を取り上げて、みんなで話し合って解決するという活動は、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」を実践する練習になると思います。先生方も話し合いに加わって、みんなで議論してアイデアを出して課題解決を目指す。そのとき、気をつけなければならないのは、どのような意見も排除することなく、まず受け入れるということです。そうすることで、問題解決の過程を通じてオープンで透明性のある人間関係が築かれていくのではないでしょうか。

声を上げることは、決してむだではない

──教室で積極的に発言する子どもが減っていると言われていますが、そのような話し合いに際して子どもたちの発言を促すために、先生方はどのようなはたらきかけをしたらよいと思われますか。
   
 自分がわかっていないことについて、「わからない」と声を上げさせることから始めてはどうでしょうか。普段あまり発言しない子にとっては、大きな一歩ですよね。また、その発言によって、その場にいる他の子の「自分もわかっていなかった」という気づきや、「理解が追いついていない人がいるんだからもっと詳しく説明しよう」といった考えにもつながっていきます。そのようなオープンに話し合える場が育つことによって、子どもたちにも積極性が出てくるのではないでしょうか。
 最初に、SDGsはボトムアップでできたという話をしましたが、話し合いの主導権を握ったのは、コロンビアやグァテマラといった、大国ではなく中ぐらいの国でした。その中には女性が多数参加していました。その方々が、次第に多くの人や組織を巻き込んでできたのがSDGsです。SDGsは、多くの人の声が反映されたことで、次第に参加者のオーナーシップ(自分自身の課題として捉え、責任感をもって取り組む姿勢)が生まれていったと聞いています。自分もコミットできるんだ、という空気が広がっていったんですね。
 ですから、教室でみんなで解決策を話し合うときには、先生が積極的に子どもたちの声を拾い上げて、「この解決策のこの部分に私の意見が反映された」というような成功体験を、子どもたち一人ひとりが得られるようにしていただきたいと思います。声を上げることが決してむだではないと感じること。解決策に対してオーナーシップをもつこと。そうした経験をすることで、SDGsのスピリットは子どもたちに非常によく伝わるのではないでしょうか。
 SDGsは「2030年には世界はこうありたい」という目標ですから、先生方には「SDGsは希望を描いたものなんだ」と子どもたちに伝えていただきたいと思います。たとえば今10歳だとすると、2030年には23歳。まさに時代を作っていく年代になるわけです。小学生の今は、自分が声を上げることで物事を変えられるとか、人の役に立てるような新しいアイデアを出すとか、そういう自己有用感(人の役に立った、人から感謝された、人から認められたなどを認識できたときの感覚)を育むよい機会かもしれませんね。まずは子どもたちが自分の身近な問題について関心をもち、自分事として考えることが大切だと思います。
   
   
──お話をうかがい、SDGsについての理解を深めることができました。同時に、これをどう子どもたちに伝えていけばよいかのヒントもいただきました。たいへん有意義なお話をありがとうございました。

国谷裕子さん プロフィール

くにや・ひろこ。大阪府生まれ。1979年に米国ブラウン大学卒業後、1981年、NHK総合「7時のニュース」英語放送の翻訳・アナウンスを担当する。1987年からキャスターとしてNHK-BS「ワールドニュース」「世界を読む」などの番組を担当。1993年から2016年までNHK総合「クローズアップ現代」のキャスターを務める。2011年日本記者クラブ賞、2016年ギャラクシー賞特別賞を受けるなど、多数の受賞歴がある。著書に『キャスターという仕事』(岩波新書)。

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