2017年 12月 08日
国谷裕子さんに聞く SDGsに込められた思いと、子どもたちへの期待-前編-
2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)。これは、2030年までの達成を目指して世界が掲げた17の目標と、具体的な行動の目安となる169のターゲットからなる「持続可能な開発目標」です。地球環境や貧困、格差などの世界的な問題の解決に向けて、世界中で取り組むことが求められています。
日本に住む私たちは、このSDGsをどのように受け止め、また、次代を担う子どもたちにどうやって伝えていけばよいのでしょうか。SDGsに関する情報の発信と共有に注力されているキャスターの国谷裕子さんと一緒に考えていきたいと思います。

現在の危機的状況から脱するために、 これまでとは違った社会のあり方を提案しているのがSDGsです

──国谷さんはSDGsについて、積極的に啓蒙活動をされています。こうした活動に取り組むことになった経緯について教えてください。
これまで私はキャスターとしてNHKの「クローズアップ現代」という番組で、ありとあらゆるテーマに取り組んできました。ですが、ひとつの問題に向きあってこれが解決策だと思って伝えたことが、一方で別の問題を作り出しているということがあり、目の前の問題の解決策しか示せていなかったという反省がありました。
いろいろな問題の解決に向けて、もう少し物事を横断的に考える必要があると思っていた頃、取材で創設70年を迎えた国連総会に行きました。その総会で、全加盟国が、環境問題、社会問題、経済問題などさまざまな問題を統合して解決していこうという「SDGs」を採択したのを見たときに、ああ、こういう考え方があるのかと感じたのです。
つまり、ひとつの分野だけではなく、さまざまな分野にまたがる横断的な解決策を探り、さらにその根本原因と向き合い、何をするべきかを考える。しかも短期ではなく長期的視点で、2030年に自分たちがこうありたいと思う世界から逆算して、今ある課題の解決策を考えるアプローチは、とても革新的な考え方ではないかと思いました。それで、多くの人たちにこのSDGsを知っていただくことが重要だと思ったわけです。
──SDGsの革新性はどのあたりにあると思われますか。
SDGsの考え方のベースにあるのは、このままでは地球を果たして維持できるのかという非常に強い危機感です。SDGsは、地球の平均温度が上昇したり、生物多様性が失われたり、土壌が劣化したりするなどの環境変化に対する危機感の共有から生まれてきたのです。わずか60年のあいだに、人間が消費する食べ物や水、エネルギーは加速度的に増えていき、地球への負担がとても大きくなってしまいました。人間が地球を作り変える力をもってしまったのです。人間は地球に依存して生きているのに、その地球のメカニズムが壊れてしまう。それだけ危機的な状況だということです。
またSDGsは、国だけではなく、NGOや民間団体も議論に加わって、国連としては非常に珍しくボトムアップで作られました。SDGsは17の目標と169のターゲットがあり、項目が多くてわかりにくいところもあるのですが、多くの人の声を反映した結果なのです。
SDGsの目標17に「パートナーシップで目標を達成しよう」というものがありますが、これは非常に重要な考え方です。たとえば技術開発だけでは課題は解決しません。同時に社会の仕組みも変えなくてはならなかったり、膨大な金額の投資が必要だったりします。そのためにはさまざまな形での連携、つまりパートナーシップが大切だということを示しています。そういう意味では、SDGsは、これまでとは違った新しい社会の目指し方を提案しているともいえるのではないかと思います。
ひとつの目標の解決が、好循環につながっていく
──SDGsが掲げる17の目標のなかで、日本の取り組みが遅れているのはどの目標だと思われますか。
ドイツのベルテルスマン財団(※)により、SDGsの各目標に対する各国の達成状況をまとめた調査報告書が発表されています。それによると、日本の場合は目標5の「ジェンダー平等を実現しよう」が達成にほど遠いと指摘されました。日本はまだまだ女性が充分に活躍できる環境になっていません。女性の管理職比率を見てもそうですし、性別役割分担意識が強い地域も残っていたりして、ジェンダーの部分では立ち遅れていると思います。
目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」についても、再生可能なエネルギーの分野において充分な対応ができていないとされています。また、目標13「気候変動に具体的な対策を」は達成にほど遠い、目標14「海の豊かさを守ろう」は達成には課題が多いとされています。
SDGsの根幹にあるのは環境です。海の資源や土壌の多様性が保障されたうえで、社会の課題として貧困と教育の問題がどこまで解決されているかが問題となります。社会の課題の上に、さらに経済の課題があります。目標8「働きがいも経済成長も」では、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)がしっかりと保障されているかどうかが問われているのではないでしょうか。
また、目標6「安全な水とトイレを世界中に」は、日本人からすると水は豊かだしトイレもきれいなので、すでに達成されているという評価は当然のように思います。でもよく考えると、日本は食料を輸入に頼っている国であり、外国の大量の水や土壌を使って豊かな食生活を送っている。大量のミネラルウォーターも輸入しています。その一方で、年間632万トンという大量のまだ食べられる食品を捨てています。これは世界中の食糧支援の2倍の量を捨てている計算になるんです。
食料廃棄をこれまでの半分の量に減らせば、目標12「つくる責任、つかう責任」が解決に近づきます。また廃棄物が減ることによって、環境を汚染することが減っていきます。そうすれば目標14「海の豊かさを守ろう」や、目標15「陸の豊かさも守ろう」にも貢献します。SDGsの17の目標は、相互に関連しているんです。今の地球では悪循環が起きていますが、ひとつの目標の解決が、好循環につながっていくんです。
※ベルテルスマン財団は、1977年に設立された年間100以上の公益事業を行うドイツ最大規模の財団。社会福祉へ貢献する目的で、文化をはじめ、教育、国際交流、政治や医療などの分野で活動を展開している。
国谷裕子さん プロフィール

くにや・ひろこ。大阪府生まれ。1979年に米国ブラウン大学卒業後、1981年、NHK総合「7時のニュース」英語放送の翻訳・アナウンスを担当する。1987年からキャスターとしてNHK-BS「ワールドニュース」「世界を読む」などの番組を担当。1993年から2016年までNHK総合「クローズアップ現代」のキャスターを務める。2011年日本記者クラブ賞、2016年ギャラクシー賞特別賞を受けるなど、多数の受賞歴がある。著書に『キャスターという仕事』(岩波新書)。
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