2016年 10月 13日
「筆」で計算するから「筆算」?

「筆算」にはどうして「筆」という字が使われているのでしょうか?
「鉛筆で書くからでしょう?」
「まさか、算数で筆を使うわけないよね?」
子どもたちは、このように考えるかもしれません。
実際に、昔の人々は筆で書きながら計算を行っていました。
しかし、それだけではありません。
「筆算」という言葉は、日本における算術の発展の歴史を表しているとも言えるのです。
「筆算」は江戸時代の大発明!

関孝和像/一般財団法人高樹会蔵・射水市新湊博物館保管
日本で筆算の原型となる計算方法を発明したのは、江戸時代の数学者、関 孝和(せき たかかず、?-1708)です。
彼は「和算の開祖」、「算聖」などと呼ばれる天才数学者で、その計算方法の発明は、彼の偉大な業績の一つであると言われています。
筆算を使うと、暗算では難しい複雑な計算でも、簡単な計算に分解して扱いやすくすることができます。
コンピュータのない時代、筆算はそのような計算をするうえで非常に役立つものでした。
それでは、江戸時代より前には、日本ではどのような方法で難しい計算が行われていたのでしょうか?
複雑な計算を助ける便利な道具たち

「計算するときに使う道具は?」ときかれたら、コンピュータや電卓を除くと、多くの人がそろばんを思い浮かべるのではないでしょうか。
日本では、室町時代にはそろばんを使った加減乗除の計算が既に行われていたと言われています。

算木と算盤/一関市博物館蔵
このほかに、より高度な計算のため「算木(さんぎ)」と「算盤(さんばん)」も用いられていました。
算木は本数と並べ方で数を表す小さな棒、算盤は算木を置くための紙や布のことです。
算木には、正数をあらわす赤い算木と、負数をあらわす黒い算木の2種類があります。
これを算盤の上に並べると、算木と算盤のマスの組み合わせによって、高次の代数方程式さえも解くことができます。
複雑な計算は、そろばんや算木などの道具を使って行うものでした。

しかし、これらの道具には欠点もありました。
そろばんは専ら加減乗除の計算に使われ、算木と算盤は係数が数字の方程式しか解くことができなかったのです。
たとえば、右に示した方程式のうち、①のようなものを解くことは可能でしたが、②のようなものは解くことができませんでした。
また、これらの数学の知識や道具は、日本で生まれたものではなく、中国から伝わったものでした。
このような中で、道具の持つ欠点を筆一本で克服し、日本独自の数学が発展するきっかけを作ったのが、関 孝和です。
もっと複雑な計算も、筆一本で! 関 孝和の大発明

現在用いられている計算式(上)とそれに対応する傍書法(下)
関 孝和は、中国から伝わった数学をマスターすると、数学研究を重ね、やがて墨と筆を使って紙の上で計算する独自の方法「傍書法(ぼうしょほう)」を生み出しました。
これが、日本での筆算の始まりです。
傍書法は、算木などの道具を用いるよりも高度な計算を可能にするものでした。
こうした関 孝和の功績により、日本の数学は「和算」として独自に発展していきます。

現在私たちが学んでいる算数・数学(洋算)とは違い、和算は縦書きに漢字を使って問題を解くものでした。
日本では、傍書法の発明から約200年後、明治時代に洋算が導入されるようになりましたが、日本人が洋算を理解することができたのも、この和算の発展があればこそでした。
このように、「筆算」という言葉には、「暗算や道具によってではなく、書いて計算する」という意味が込められているのです。
- 参考文献
- 桜井進『雪月花の数学』祥伝社、2010年。
- ――『夢中になる!江戸の数学』集英社、2012年。
- 東京書籍株式会社『新編 新しい数学2』東京書籍、2016年。
- 日本数学教育学会研究所『算数好きな子に育つたのしいお話365』誠文堂新光社、2016年。
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